ダンスバトルの在り方

とあるダンスバトルのシーンが世界的に話題になっているので、今回はバトルの在り方について考察してみたいと思います。

なぜ、ダンスバトルでは相手を殴らないのか・・・


*実際の話題の動画についての意見は章末に書いておきます。


バトルでやたらいきっている人
とても失礼な言動をする人
必要以上にバイトのジェスチャーをする人
そういう人達の多くは形から入っている、「えせスタイル」だと自分は感じます。


最近では前ほど見ることはなくなりましたが、
ダンスバトル中に相手を必要以上に挑発したり、
実際に押したり、悪口のようなことを言ったりする人がいます

そういう人の多くは、これは「ダンスバトル」だから、
どれだけ挑発しても結局はやり返されないだろうと思ってやっているんだと思う。

でも、事実はそんなことは無いです。
本当にひどかったらやられる事もあります。
うちのチームのメンバーは、相手の挑発があまりに過ぎて頭にきて、バトル中に腹にパンチしてました(笑)
でも、こんなのかわいいもんです。

バトルで勝って思いっきり勝ち誇った態度をしたら、
後で家までバットもって攻めに来られたとか、
フロアーに画びょうをまかれたとかそういう実話も聞いています。
車のトランクに入れられて別の場所につれていかれて・・・
みたいな話も、実名は出せませんが、実際に日本でも起こっています。

ブロンクスでダンスバトルしていた初期のころは、このような闘争につながる危険性がいつもあったのだと思う。

要するに、
もしかしたら相手に殴られるかもしれない とか
刺されるかもしれない とか
そういう危険です。

ダンスのバトルやヒップホップの世界でRESPECT(リスペクト=尊敬、尊重)という言葉がよく聞かれるのは、
逆に、このカルチャーがそういう危険な修羅場を経てきているからだと思う。

自分の方が相手よりダンスが上手いから、
やたらと見下した態度をとるとか、
とても失礼な挑発の仕方をするとか、
そういう事をすれば場合によっては殺されるかもしれない。
殺されないにしても後で袋叩きになるかもしれない。
そういうリスクを考えたら、とてもそんな失礼な行動をとれないと思う。

「俺の方がダンスは上手いけど、あなたという人間はRESPECTしていますよ」
・・・という態度が、このような血なまぐさいやり合いを避けて、平和に生き抜くための知恵だったのだと思う。


B-Boyはバトルに特有な動きとして「アップロック」とういステップがあります。
これは、もともとは「相手のノドをナイフで切りつける」という動作をモチーフにして作られている。
本当にやったら生死に関わるから、「やっているフリ」をしている訳です。
これはヒップホップ創成期に、ギリギリ追い詰められて、命の危険も感じていた人達が生み出した回避策です。


HIP HOP の神的存在である、Afrika Bambaataa(アフリカ・バンバータ)はBRONX(ブロンクス)のギャングのリーダーでした。
自分のギャンググループが警官との銃撃戦になり、仲間が撃ち殺されたのを見て、このままだと自分達が自滅するから方向転換をしないといけないと決心しました。
それから彼は、平和的に争う方法、
「ヒップホップ のBATTLE」というものを推進していくのです。


要するに、
「実際にはやらない」
というのが一番大事なコンセプトなのです。


ダンスバトルで時々見ますが、
バトル中に散々失礼な挑発や態度をしておいて、
バトルの終了後に笑って握手している人

「よくできるよねっ」って思います。

DANCE BATTLEは、バーチャルな世界ではなくて、生身の人間同士のぶつかり合いです。
バトルだからある一定までの線はもちろんOKだと思います。
でも、バトルだから何でも許されるわけではないです。


ニュースで見る機会が多い以下の様な事例
・成人式で暴れる新成人
・警官にやたらいきっている暴走族
・先生にとても失礼な態度をする中高生

そういう人達は、相手が絶対にやり返さないだろう
やり返せないだろうと分かっていてやっているのです

これはとても「ダサい」し、人としてずるい行為です

社会規範として、どんな立場においても、
犯罪行為やそれに近い暴言や暴行などは厳しく罰するべきだと自分は思います。
誰にも相手を肉体的に、
あるいは精神的に傷つけて許される権利などありません。
それは未成年だろうが、大人だろうが関係ありません。
未成年だから許されるというのは間違っていると思います。

そして自分の中では、
バトル中に必要以上に相手に失礼な態度をとる人達は上記のような人達と全く同じに見えます。

現在のHIP HOP カルチャーに関わる多くの人達は、発祥当時のブロンクスのような、本当の闘争の時代や環境を経験していないです。
だから、勘違いして失礼な態度が過ぎてしまうという事があるのも多少は理解できます。
でも自分はダメな行為だと思う。

相手を殴らなければ、
実際に接触しなければ、「殴ってないからいい」というのは誤解です。
勘違いしないでください。
失礼すぎる態度や、失礼な言葉などは、実際にそこで発せられているのであるから、殴っているのと同じ事です。
暴言やひどすぎる態度は暴力と同じです。

もちろん、実際に押したり叩いたりするのはもっての他です。

平和な時代だからこそ、何故ヒップホップが、
ギャングのリーダーであったバンバータが、
PEACE(ピース=平和) とか、RESPECTとか言い出したのか、
そういう事について皆さんも一度考えていただければなと思います。

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さて、ここからは、冒頭に書いた、話題になっているダンスバトル動画について自分の意見を書いておきます。

皆さんもこの文章を見て、この意見が間違っているとか、合っているとかいろいろ感じると思います。
いろんな意見の人がいるのは正常な事です。
意見を交わし合う事で、皆がその事についてより考えるようになり、カルチャーが前進するきっかけになると思います。
いろんな意見が総合されて、次のステップに進んでいくのが、我々の愛するHIP HOP CULTURE の在り方です。

・・・話を戻します。
まず最初に、自分はこの現場にいたわけではなく、現場の空気はわかりません。
そして、この問題になっている2人の関係性も分かりません。
グリーンテックには会ったことはあるけれど友達ではないです。
なので、あくまで動画を見たレベルでの話になってしまいます。


基本的にはグリーンテックの行動はNGに決まってますね。

ダメなポイントは以下の2つです
1.水をかける(5’30前後)
2.ハグしている人を思いっきり押す(13’40前後)

1の「水をかける」は、
もし2人がもともと友達であるとか、人間関係があるのであれば
この動画を見る感じでは自分の中では許容範囲かなと思います。
2人の間に人間関係がないならもちろんNGです。

2の「押す」の方は自分の見た感じでは、本当に嫌そうにやっている。
例えば好きでない人にいきなり思いっきりハグされたら、
皆さん普通に嫌ですよね。
そういう気持ちかもしれないので、その分は割り引いてみてもいいかなと思う。
だけどちょっと押し方が強すぎる。


見た感じ暴力的なのは2の方だけど、気持ちの部分も考えてみると、
1の方が行為的にはNGなのかなと思います。
(繰り返しますが基本はどっちもNGです)

ただ、最後には一応握手もしているので、
総合的には「良くないけど、ギリギリ許容範囲」のような気もします。


自分の意見をまとめると、本当に当たり前の意見になってしまうけど、
今回のグリーンテックの行動は


*映像だけ見た感じではもちろんNG
*2人の間に人間関係があるのであれば、総合的にみるとギリギリ許容範囲
*もし、相手の方がグリーンテックに対して何か失礼な事や嫌な事をバトル中に「言っている」とすれば、グリーンテックの行為を割り引いてあげないといけない。
それは、手出しをしなければ、言うだけならいいという事ではないからです。
ひどい中傷をするのも、言葉の暴力なので、同じことです。
ただ、自分の見る限り、そのような酷い事を言っているようにも見えません。

真相は2人にしか分からない・・・が結論です。

またもう1つ別の意見としては、
グリーンテックが、このような問題になる行為をして、闘争に巻き込まれるリスクについても考えているのかは疑問に思います。
彼の行動は「やってはいけない行動」だけど、もしやるなら、そこまでの覚悟を決めてやらないといけない。
そして、恐らくは、そこまでの覚悟は無いのではないかと思います。


ダンスバトルは、そもそも実力行使をあえて封印するという基本ルールにもとづいているのであって、それを破った場合のリスクは全て自分の責任です。

END OF THIS STORY