最高のダンスとは?

ダンスは、人間がもつアートフォームの一つで、
大きなくくりで言うと表現活動です。

別項でも書きましたがそういう意味ではダンスは、
自分なりの表現が、自分に納得がいくように踊れていたらそれでいいのだと思います。

*参照:ダンスは何のために踊るのか?

そうは言っても、
「いいダンス」と、「そうでもないダンス」は存在すると思う。
それは「いい絵」と、「そうでもない絵」が存在するのと同じことです。

では「最高のダンス」たるべく、ダンスが目指すべき究極の目的は何なのか?


それは、「楽曲とのシンクロ」であると考えます。

世の中には音をかけないで踊るダンスも存在します。
更に言うと昨今は、ストリートダンスの技術を使って、
スローバラードなどを踊るというケースも多々見られます。
それらをも含めると話題がぶれてしまうので、
今回は、ビートのある音楽に合わせて踊る、
ストリートダンスに限定して書いていきます。

さて、「音楽とのシンクロ」とはいったいどういう事なんでしょうか。
通常ストリートダンスで使う楽曲は強いビートが入っております。
基本はそのビートをとりながら踊ります。
もちろんメロディーをとる場合、ベースの音をとって踊る場合など、
様々なケースが存在しますが、基本はビート基調で、
その他の動きが入ってくると考えるのが一般的でしょう。

「そんなの皆やってるじゃん」

「当たり前じゃん」

という声が聞こえてきそうです。
果たしてそうでしょうか。

自分の経験上ですが、
この当たり前の本当の意味での「音楽とのシンクロ」
という事が分かっていない人が相当数います。

では、話を戻しますが、
この「楽曲とシンクロする」とは、どのように踊る事でしょうか。

それは、

「音がなっているように踊る」

という事だと思います。

逆の言い方をすると
「音を奏(かな)でるように踊る」
という言い方もできるかと思います。

我々のダンスは音楽が先にあって、
それに合わせて踊っているから、
「音を奏(かな)でるように踊る」
という言い方は本来間違っています。
それでもあえて書いたのは、
音楽を奏でるように踊るという事は、
音楽とのシンクロ性を高めるように踊る為に、分かりやすい考え方だからです。

では、「音楽が鳴っているように踊る」とはどういう事なのか。

シンプルな例と問題点をあげてみます。

それはビートとのシンクロです。

ビートとのシンクロが分かっていない人は大抵、
ビートの強いところ、いわゆるオンビートの所だけを強くとっています。
オンビートとは、4拍子の曲で言うと、その拍子のところです。
いわゆるワン、ツー、スリーとカウントを数えるところになります。

例えば、「ダウン」(オンビートのところでヒザを曲げる動作)
で良く見られる例をあげてみます。

①オンビートのところでヒザを曲げて強く音をとり
②勢いよく反発しヒザが伸び切るところまで上がり
③次のビートが来るまでの間静止する

という動きをするケースが非常に多く見受けられます。

では、この時に鳴っている「音楽」はどうなっているでしょうか。
音は、ビートに限って考えても、
「ドン」と強くなった後に、それが消えるまでの間余韻が残ります。
文字で表現すると

ドン————(だんだん小さくなる)

ドン————(だんだん小さくなる)

と繰り返している訳です。

決して
「ドン」でぶった切れているわけではありません。

ここで大事なのはこのビート音もさることながら、
音楽というのは基本ずっと流れているという事です。
要するにわざと止めているところ以外は、
音はずっと流れていて、無音の状態が無いという事です

それでは先ほどの「ダウンの動作」と「音のなり方」について比較してみます。

①のオンビートのところを強くとるというのはいいと思います。
②その後すぐに跳ねるように反発している事には問題があります。
 この跳ねるような踊り方は、音楽で言うとスタッカートにあたります。
 果たして、あなたが踊っているヒップホップの楽曲は
 スタッカートのように毎回音が跳ねているでしょうか?
(逆に言うとスタッカートの音には跳ねるように踊った方が音に合ってきます)
③について考えると、では、その「静止している間」
 音楽は止まっているでしょうか?

簡単に言うと以上のような事になります。
要するにこういう踊り方は、

ビートの強い場所には合っているけれど
音楽には合っていないという言い方が出来ます。
もっと言うとビートの余韻を拾っていないので、
ビートにも合っていないという言い方もできるかと思います。

これがダンスと楽曲とのシンクロ性を失わせている大きな原因です。
特にビートを基調とする音楽で踊る、
我々のようなストリートダンスで考えると深刻な問題です。

この事を理解しないで教えている人、
踊っている人が多いため、
そういう人のダンスはいつまでたっても音楽とのシンクロ性が高まりません。

いくら凝った振付や、
最新のステップ、
あるいは派手な動きを入れて踊ってみても、
音楽とのシンクロ性、(我々はこれをミュージカリティと呼びます)が高まらない限り、
いいダンスにはならないと思います。

例えばあなたがバンドのメンバーで、
他の楽器の人と音楽を演奏しているとします。
毎回跳ねるようなスタッカートな音の出し方、
途中で音を止めるような演奏の仕方をしていたら、
曲がめちゃくちゃになってしまうと思います。

ダンスも同じことです。
踊り手は、音楽がどのようになっているかを考え、感じて、
鳴っているように踊るべきなのです。

優秀なダンサーは皆これをやっています。

また、この状態が究極に高まっているダンサーを見ると、
まるでその人の動きに合わせて
音が鳴っているように感じられることもあります。

これは至高の状態で、
うまいダンサーでも毎回このレベルまで達しているわけではないと思います。
自分が他のダンサーからこの状態を感じるのもの年に数回です。
ただ、その状態を見た時は本当に感動します。
当然、自分もそうなりたいと思っていますが、
なかなかその域に達せないのが現実です。

これは、
ヒップホップもポップもロックもブレイクも関係なく、
全てのストリートダンスに共通した、
目指すべき境地だと思います。

残念ながら、現代の日本人に関して考えると、
天性で、このビートが鳴るように動ける人は非常に少数です。
体感的には100人に1人いるかいないかです。
なので基礎練習で、後天的にその感覚を身に付ける必要があるわけです。

ダンススタジオで基礎練習をするのはそういう意味があります。
ですが、その動作だけを拾って、
先ほど書いたような
「跳ねるような練習」「止まってしまう練習」
ばかりをしている先生や、スタジオも沢山あります。

これでは本末転倒で、やればやるだけ
音楽とのシンクロ性を失う動きが身についてしまいます。

特にダンス指導に当たる我々は、
見た目の表面的な振付ばかりを考えるのではなく、
ダンスと音とのシンクロ性を高めるために
何が重要なのかをよく考えていきたいなと思います。

音楽とのシンクロについて解説した動画をアップしました!
是非ご覧ください

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