いいダンスレッスンとは Vol.4

何人かのメンバーで踊るグループダンスの場合、メンバーの動きを可能な限り合わせようとする指導者を多く見かけます

この考え方はスポーツに近い「集団行動」的な考え方だと思われます。

果たしてダンスはスポーツなのでしょうか?

答えはもちろん違います。

なので、スポーツの定義をそのままダンスに当てはめる事は出来ません。

 

まず、集団行動的考えとは、

「集団の中の個」という考えです。

先に「集団の動き」があって、「個」はそれに動きを合わせていきます。

 

ところがストリートダンスの考え方は逆です

「個が集まって集団になる」

という考え方です。

 

「個性ある個人」の動きが集まった結果「集団」になっているのであって、
集団からブレイクダウンして個の動きを規定しているのではないのです。

 

この2つの考え方を楽器の演奏に例えると、

集団行動的考え方は、
「全員が同じ楽器を一糸乱れぬように演奏する」

ですが、

ストリートダンスの考え方は、
「それぞれ違う楽器を演奏し、全体として調和のある状態にする」

という事だと思います。

また、この2つの考え方の決定的な違いは、この「集団の動き」を合わせるために使っている方法です。

「集団行動」的な考えでは、
「隣の人と動きを合わせること」
によって集団の動きを合わせています

しかしダンス的な考えでは、
「音楽と自分の動きを合わせること」
により集団の動きが合っています。

要するに、音楽と一人一人のダンサーが合った結果、全体で見ても合っている状態になるという事です。

「集団で同じ動きをする」という事に限ってみれば一見同じに見えるかもしれませんが、この2つの考え方の違いは、
「ダンスであるか、ないか」という決定的に異なった結果を生み出します。

 

これは我々の踊っている「ストリートダンス」とういうものが、
当たり前ですが、
「音楽に合わせて踊る」という大前提があるからです。

端的に言えば、「集団行動的」なダンスの考え方や指導方法は非常に多く見受けられる誤解です。

何故このような誤解が多く発生するかというと、それは「ダンス」本来が持つ特性にあると思います。

ダンスは「身体運動で表現するアートフォーム」であり、
しかも、
「音楽と一緒に行われる」ものです。

体を使っているのでスポーツの様に考えてしまう人が多いのです。
また、音楽の一部と合っていると、それで音と合っていると考える人も多いです。

「音楽に合わせて」行う集団行動も、部分的には音楽に合っています。
でもそれは、流れている音の中のほんの一部、「点」になります。

音楽とシンクロするというのは、1音1音と自分たちの動きが一体化することであって、音の一部分を「動くための合図」として利用しているのとは異なります。

あるとき自分が指導している子供チームの保護者の方に聞かれたことがあります。

保護者:「最後のポーズの腕の向きが人によって違うんですが、どれが正しいのですか」
自分:「手の向きなんてどうでもいいんです」
保護者:「え、どうでもいいんですか!」
その保護者の方は自分の答えにだいぶ驚いていました。

「どうでもいい」はちょっと乱暴な返答だったと思いますが、これは、自分の指導しているグループダンスの趣旨が、
「全員を同じ形に揃える」とう事ではなく、
「それぞれが、自分のかっこいい形で、音楽に合わせる」
という事であったからです。

そしてこれがヒップホップのダンスに対する考えのベースです。

ダンスが「揃っている」「揃っていない」という事ばかり言っている指導者は、
ダンスとは一人一人が音楽と合わせる行為であるという大前提を理解していないとう事になります。

 

ちょっと脱線した例になりますが、これは自分の経験上心にのこっている教訓なので、敢えて書かせていただきます。

自分の子供が3歳ぐらいの時でしょうか、家族3人でディズニーランドに行きました。
ご存知の通り、ディズニーランドはいつもかなりの人で混み合っております。
自分は、子供にできるだけいろんなアトラクションを経験させてあげたいと思い、一つのアトラクションが終わったら奥さんと子供をせかして次のアトラクションに急いで移動しておりました。
混んでいるから、ゆっくりしているとなかなか順番が回ってこないからです。
小さい子供なので、時にはのろのろとした行動して、それを怒ったりもしました。
さて、ディズニーランドの中に、「トムソーヤ島」とうい場所があり、最後の方でそこに行きました。
そこにはいわゆる凝ったアトラクションは一つもないんですが、
なんと、うちの子がその日一番楽しそうにしていたのは、
そのトムソーヤ島にあった、何の変哲もないシーソーでした。

この時自分は気づきました。

ディズニーランドには、子供を楽しませるために来たはずなのに、目的が、子供を楽しませることよりも、出来るだけ多くのアトラクションを経験させたいという内容にすり替わってしまっていました。
結果、子供や家族をせかしたり、時には怒ったりして、本来の「楽しむ」という目的からすると全く意味のない言動をしてしまっていました。
「目的」と「手段」が完全に入れ替わってしまった、本末転倒な行為でした。

 

だいぶ外れた例に思えるかもしれませんが、「目的」と「手段」が入れ替わってしまうという分かりやすい例として書かせていただきました。
そしてこの入れ替わりは、誰もが陥りがちな間違いだと思います。

 

ダンスでもこれは非常によくある話しです。

音楽を置き去りにして、人間同士の動きを合わせようとするのは、自分がディズニーランドで犯した過ちと同じです。

ダンスは個人個人がが音楽と合わせるアートフォームであり、各個人が合わせた結果集団で見ても合って見えるのです。
人間同士の動きを合わせるのが目的ではないのです。

 

揃っている事を第一義にしているダンスは、とても分かりやすく、見やすいです。
でも、このスポーツ的な指導のもとに行われているダンスでは、「体の動き」という面では得るものはあるかもしれませんが、
「音楽と呼応する技術」や、そこから得られる「心の豊かさ」などを経験することは難しいです。

指導者にあたる人はこの部分が本末転倒な指導になっていないかを常に考えなければいけないし

レッスンを受ける人は、指導者がダンスをスポーツの様に捉えていないかどうかを見極める必要があります。

「いいダンスレッスンとは」 Vol.5に続く

TO BE CONTINUED


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