いいダンスレッスンとは Vol.1

「いいダンスを教える事」

「いいダンスを教わる事」

とはどういうことなのか・・・

残念ながら自分から見て、
「そんな事で本当に大丈夫か」と思うような例を今まで沢山見てきました。

教える人には責任があるし
教わる人(子供の場合は保護者の方)には、選別する「目」が必要だと思います。

同じ習うなら、是非、
「いい先生」について「いいダンス」を習って欲しいです。

間違っても、
「友達が行っているから」とか
「あそこは生徒が多いから安心だろう」とか
そういう理由で選ばないで、きちんと中身を見て確認して選んでいただきたいです。

何故なら世の中には
「よくないダンス」
「よくないダンスレッスン」
が沢山存在するからです。

自分の経験では、ダンスの先生ほど「質の格差」がある仕事は珍しいと思う。
例えば町のラーメン屋さん、無名なところでも、人気がないところでも、「美味しくないラーメン」が出てくる事はほぼないと思います。
それだけ「最低ライン」のレベルが一定の高さで保たれているのでしょう。

しかしダンスは違います。
特に「ストリートダンスの先生格差」はひどいのかもしれないです。
残念ですが、驚くような例を日本全国で沢山見てきております。
先生の質で、習っている人、子供達のダンスは全く違ったものになるし、
その「学びから得られるもの」も全く違うものになります。

私は、
うちの子は、
ダンスのプロになるわけではないからいいんです。
・・・という意見の方もいると思います。

その意見は一応理解できますが、それは他の習い事でも同じです。
ピアノや野球をやっている人が、みなプロを目指しているわけではないのは明白ですね。

 

ダンスも同じです。
でもプロにならないからと言って、
「よくないダンス」を習うのがいいという事にはなりません。
ダンスはアートとして、
学んでいく中で将来自分の財産として残っていく大切な要素が含まれています。

大袈裟な言い方になりますが、それは、

人間が、食べるためだけに生きていない現代において、
文化的に生活していく中で活きてくる大切な事を
学べるか 学べないか
という事に関わってきます

同じ時間をかけて習うなら、
「一生持っていける財産」を得た方がいいとは思いませんか?
「いいダンス」からはそんな大切な「財産」を自分の中に築く事が出来ると考えています。

今回は少々踏み込んだ話になりますが、読んでいただいている皆さんに分かっていただきやすいよう、敢えて具体的な例をいくつかあげていきたいと思います。

以下は自分が全国各地のコンテストやレッスンで見てきた
「良くないダンス」の例です

●東北のキッズダンスコンテストでのお話
いわゆるダウンやアップなどの体幹のリズムなしにステップだけをやっているチームがいました。
コンテスト終了後に意見を聞きに来たので、
「レッスンでダウンとかアップというリズムトレーニングはしていないの」と聞いてみると
子供達「していないです」
保護者「いつもしているじゃない。」
子供達「それはレッスンの最初にやるやつでしょ。ステップと一緒にはやってないよ」
と答えていたのを聞いて驚愕しました。
残念ながら、この子たちの先生はダンスの何たるかをまるで理解していないで、形だけ教えているんだと思います。
「レッスンの最初にやるやつ」は、儀式の様に最初にやっているだけで、本来のダンスに必要な基礎としての認識がまるでないのだと思います。

●自分のやっている長野県のスタジオ近隣のイベントでのお話
とあるスタジオの子たちはREABOK(リーボック)というステップを体幹のリズム動作(前乗り)が全く無しで、左右に2ステップしながら、ヒジから先だけを動かすという衝撃の動きをしておりました。
その姿はまるでインベーダーゲームのようでした。
この動き(もはやダンスという事はできません)はあまりに衝撃的だったので自分のワーストダンスのトップ10に入る記憶として鮮明に残っております。

●とあるオーディションでのお話
参加者に非常にベーシックなヒップホップの簡単なステップを教えて、それをオーディションで踊ってもらうという機会がありました。
ランニングマンのような本当に誰でも知っているステップの、ほぼ羅列したような振付を教えても全然できない青森から来た女子高生。
実際のオーディションの時にダンス歴を質問すると、
ヒップホップ7年と言われて驚愕しました。
いったい何を7年も習ってきたのかと・・・

●現在自分の東京のスタジオに通っている男子高校生から聞いたお話
学校ではダンス部に所属しているが、顧問の先生はダンスの事が分からないので、練習はもっぱら体力作り。
ランニングや筋トレばかりというお話。
ダンスが分からないなら、外部から分かる人を呼ぶか、
生徒に任せて後方支援に回るべきだと思うが、
やたら指導は厳しいという本末転倒なお話し。

●北陸で行われていたコンテストでのお話
移動してポーズ、移動してポーズ、ポーズの連続みたいな振付のチーム。
ダンスらしいパートがほとんどない。
俺が「もっとダンスがみたい」とコメントしたところ、その「ダンス」の意味が分からないらしい。
ポーズはダンスを行う中でやる動作であって、ポーズばかりではダンスにはなり得ません。

残念ながら、悪い例は枚挙に暇がない。
これでは到底音楽とのシンクロなんどは不可能で、
習っている人、特に将来のある子供達は本当にかわいそうである。

ある時、地方の大きなコンテストで、有名な女性ダンサーと審査員が一緒になった。
彼女はコンテストに出ている子供達を見て、その内容に「いきどおり」を感じ、
楽屋でこのように言っていた
「自分も含めていいから、1回日本中のダンススタジオの先生を解任して、免許制にした方がいいんじゃないですか」

キッズコンテストで一番苦しいのは、
コンテスト終了後に、一生懸命やっている子供達に、
どうしたらいいかと質問される時です。
ほとんどのケースはダンスの根本「基礎」をやり直さないとどうにも上手くならない状態です。要するに、日常のレッスン、もっというと先生の問題になってくる。
でも、子供たちは、先生を信じて頑張ってきたわけだから、レッスンを受けているスタジオや先生の批判になるような意見は言えません。
そうなると、具体的な事は一つも言えなくなってしまいます。
特に子供達にこそ「いいダンス」を習ってほしいと思っている自分にとっては、何とも
言えない苦しい立場に立たされる訳です。

逆に基礎が出来ている子達には、いろいろと具体的なアドバイスもできます。

自分がもう少し若い時、
コンテストの後に保護者の方になにか具体的なアドバイスが欲しいと言われた時に
このように答えてしまったことを覚えています

「お話ししたいことは沢山ありますが、この短い時間でお話しできることは1つもありません。」

これは、本当に正直な気持ちから発した言葉ですが、
今の自分だったらもう少しいい言い方が出来たかもしれない。
聞いた方は、「ずいぶん冷たい事を言う人だな」と思ったかもしれません。
冷たい事を言いたかったのではなくて、正直な気持ちをそのまま言ってしまったのです。
基礎が無いとうことは、音の捉え方とか、体の使い方とか、そういう事への理解が無いか浅いかという状態です。
この状態を説明するには、最低でも数時間かけてレッスンをして、一つ一つを検証しながら教える必要があります。
1言、2言のアドバイスで変わるような事ではありません。
ダンスの根幹の事なのです。

「HIP HOPがすぐにできる」とか
「5分でできる」とか
「1週間でマスターできる」とか
そういうようなうたい文句の教材や、
HOW TO動画などを見かけることがあります。

ダンス歴35年の自分が責任をもって言いますが、
我々のやっているストリートダンスに限って言えば、
「何の経験もない人がすぐに出来るような事は絶対にありません!」
中には天才的な素質の人がいて、すぐにできてしまう事もあるかもしれませんが、
そんな人は多分1万人に1人ぐらいの割合でしかいないし、
いたとすれば、そういう人は教材など見なくても、もう出来てしまっていると思います。

 

手だけで踊るダンス(?)などはすぐにできるものもあるでしょう。
でもそれは、我々の言っている「ストリートダンス」とは全く別の物です。
我々のダンスは、順番を覚えるだけでできるものではなく、
「体幹のリズム」と、「体の動き」が一体化して初めて形になるものです。
ダンスの素地や経験が全くない人が、1日や1週間や、まして5分、10分で体現できるレベルのものではありません。
逆にその程度で出来る簡単なものであれば、文化としては定着せず、過去から未来へ引き継がれていく事もないと思います。

お笑い芸人の方がやってブレイクするダンスを交えたネタは、
ブレイクした一瞬は広まりますが、数か月で下火になり、1年後にやっている人は誰もいなくなります。
簡単なもの、誰でもすぐに出来るものというのは「文化」ではなく「はやり」なのです。

簡単にできないから深みがあり、
深みがあるから魅力があり
魅力があるから文化になり
文化になるから継承されていく

そういうものだと自分は思います。

「いいダンスレッスンとは」 Vol.2に続く

TO BE CONTINUED


いいダンスレッスンとは Vol.2